ホタテエキス中の成分が移植腫瘍に対して著しい抗腫瘍活性を示すことが、国立がんセンター研究所により報告されていました(1978年)。その後の研究により、この活性本体が糖タンパク質であり、さらにタンパク質除去後の糖鎖画分にも活性があることが示されました。しかしその活性本体の化学構造の詳細を解明するには至っていませんでした。そこで当研究グループは、予めホタテエキスにタンパク分解酵素を作用させてタンパク質を分解・除去しました。その後得られた糖質(粗多糖)をイオン交換クロマトグラフィーを用いて純粋な5つの成分(Fr.A〜E)に分離しました。そしてこれらの成分について、抗腫瘍活性試験を行ったところ、Fr.A,Bは完全治癒率100%という強い抗腫瘍活性を示しました。化学分析の結果Fr.A,Bは純度99.5%のグリコーゲンであることが分かりました。
それではグリコーゲンの分離・精製と抗腫瘍活性試験を簡単に説明いたします。
上の写真は、ホタテを連続式蒸煮装置(スチーマー)でボイルする際に得られるエキスを約13倍に減圧濃縮したものです。食塩濃度は20〜22%にもなり長期保存が可能で、ホタテ風味の調味料としても利用されています。まずこの濃縮エキスを透析膜に封入して流水中及び蒸留水中に浸漬し透析・脱塩を行いました。
透析・脱塩後のエキスを凍結乾燥すると、上の写真のような脱塩ホタテエキスが得られました。この乾燥ホタテエキスにタンパク分解酵素(Actinase E)を作用させタンパク質を分解します。タンパク質が分解してできるアミノ酸はゲルろ過(Sephadex G-25)という方法により除去しました。
上の写真は、脱塩ホタテエキスからタンパク質を分解・除去して得られる糖質(炭水化物)を凍結乾燥したものです。これをさらにイオン交換クロマトグラフィー(DEAE Sephadex A-25)により分離・精製すると5つの成分(Fr.A〜E)に分離されました。
上はイオン交換によって分離・精製された成分の一つであるFr.Aの写真です。化学分析の結果純度99.5%のグリコーゲンであることが分かりました。
ホタテエキスから得られたFr.A〜Dの抗腫瘍活性試験は弘前大学医学部に依頼して行いました。試験方法は、腫瘍細胞(Meth-A)をマウス(BALB/c)腹腔内に接種し、その後2、4、6日後にFr.A〜Dをそれぞれ別のマウスに200マイクログラム(1/5000グラム)ずつ腹腔内に投与しました。
その後60日間観察し、腫瘍死しないものを治癒マウスとしました。
サンプル 治癒数/実験数 治癒率 Fr.A 5/5 100% Fr.B 5/5 100% Fr.C 1/5 20% Fr.D 1/5 20% 対照 0/5 0% その結果上の表に示すように、ホタテグリコーゲン(Fr.A,B)は治癒率100%という極めて強い抗腫瘍活性を示すことが分かりました。
詳しくは<ホタテグリコーゲンの構造と生理活性>を参照して下さい。