2.実験方法

2−1.試料
 殻付きの生ホタテ貝を蒸煮して得られた煮汁を、減圧型濃縮装置により約13倍に濃縮した。この濃縮煮汁117 gを透析膜により透析脱塩を行い、さらに凍結乾燥して得られた粉末(16.4 g)を試料とした。

2−2.分離精製
 ホタテ煮汁からタンパク質分解酵素を用いて多糖体を抽出分離精製するスキームを、Fig. 2に示した。

Fig. 2 Extraction and Purification Scheme of
    Polysaccharide Portion from Scallop Soup.

(1)タンパク質分解酵素による多糖画分の分離・精製
 煮汁乾燥粉末16.4 gを2.5mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.7)に溶解し、アクチナーゼE(科研製薬)を100 mg加え、50 ℃で24時間処理後、新たに50 mgのアクチナーゼEを加え50℃で24時間処理し、タンパク質を分解した。次にこの反応溶液を100 ℃の沸騰水に5分間浸し、酵素を失活させ、続いて9000 rpm、30分、4 ℃の条件で遠心分離した。
 この上清をSephadex G-25ゲルカラム(50 mm×1280 mm)を用い、流速0.5ml/min、4 ℃の条件で脱イオン水で溶出し、7.5 mlずつ分取した。各フラクションについて、フェノール−硫酸法6)及びカルバゾール−硫酸法7)でそれぞれ中性糖及び酸性糖を定量した。定量の結果より糖陽性画分を回収後、凍結乾燥し、6.0 gの粗多糖画分(SCG25)を得た。

(2)DEAE Sephadex A-25イオン交換クロマトグラフィーによる分画
 SCG25(212 mg)を、10 mMリン酸緩衝液(pH 7.5)で平衡化したDEAE Sephadex A-25カラム( Cl-型、25 mm×410 mm)に供した。平衡緩衝液500 mlで溶出した後、0.0〜0.4 M NaCl含有10 mMリン酸緩衝液(pH 7.5) 1000 mlを用いて直線濃度勾配法で溶出を行った。更に強く結合する画分を2.0 M NaCl含有10 mMリン酸緩衝液(pH 7.5) 500 mlで溶出した。流速は0.5 ml/min、4 ℃の条件で1フラクションあたり5 mlずつ分取した。各フラクションについて、フェノール−硫酸法及びカルバゾール−硫酸法でそれぞれ中性糖及び酸性糖を定量した。定量の結果より5つの糖陽性画分を回収し、脱塩は透析後Sephadex G-15ゲルカラムにより行った。

2−3.グリコーゲンのTCAによる抽出
 ホタテ貝柱に10倍量の10 %トリクロロ酢酸(TCA)を加え、ワーリングブレンダー(10000 rpm, 30 sec)を用い冷却下で磨砕した。遠心分離(9000 rpm, 30 min, 4 ℃)後、上清に3倍量のエタノールを加え沈殿した粗グリコーゲンを水に懸濁させ、飽和塩化カルシウム水溶液1滴と3倍量のエタノールを加えた。得られた沈殿を水に溶解し、透析後3倍量のエタノールを加えた。遠心分離(9000 rpm, 20 min, 4 ℃)後、得られたグリコーゲンをエタノールにて3回洗浄し、五酸化リン存在下デシケータ内で減圧乾燥させた(SCTCA)。

2−4.グリコーゲンのDMSOによる抽出8)
 ホタテ貝柱(200 g)に300 mlのジメチルスルフォキシド(DMSO)を加え、ワーリングブレンダーでホモジナイズした。遠心分離(4000xg, 4℃, 20 min)後、上清にメタノールを加え再度遠心分離した。沈殿部は脱イオン水に溶解後エタノールを加え、沈殿を遠心分離により回収し、エタノールにて洗浄した。得られた粗グリコーゲンは凍結乾燥後、2−2(2)と同様にDEAE Sephadex A-25カラムにより精製し、抗腫瘍活性試験及び構造研究にはSCA25Aに相当する画分を用いた(SCDMSO)。

2−5.カキ及びアワビからグリコーゲンの抽出
 カキ及びアワビ由来のグリコーゲンは、2−2と同様の方法によりタンパク質分解酵素を用いて抽出した。DEAE Sephadex A-25カラムにより精製し、ホタテの場合のSCA25Aに相当する画分をカキ(OYA25A)及びアワビ(ABA25A)より得、それぞれを抗腫瘍試験及び構造研究に用いた。

2−6.Sepharose CL-2Bによる分子量の比較
 試料を0.2 M NaCl含有0.1 M酢酸緩衝液(pH 5.0)に溶解し、Sepharose CL-2B カラム(23 mm ×1250 mm)を用い、流速0.5 ml/min、室温の条件下でゲル濾過を行い、1フラクション4 mlずつ分取した。各フラクションについてフェノール−硫酸法にて中性糖を定量した。

2−7.酵素処理による糖鎖構造の解析

(1)β-アミラーゼおよびプルラナーゼによる分解率の測定9)
 試料約1 mgを0.1M酢酸緩衝液(pH 4.5)1 mlに溶解し、β-アミラーゼ(EC 3.2.1.2、sweet potato、生化学工業)38 Uを加え、37 ℃、6時間振盪しながら反応させ、非還元末端からマルトース単位で加水分解した。反応終了後、100℃、5分の条件で酵素を失活させ、ついで遠心分離(2000 rpm, 10分)し、HPLCにより生成したマルトース及びグルコース量を定量した。
 さらに、β-アミラーゼ処理により得られたβ-限界デキストリンを0.1M酢酸緩衝液(pH 5.0)1 mlに溶解し、プルラナーゼ(EC 3.2.1.41, Aerobacter aerogenes, 林原)1.2Uを加え、37 ℃、6時間振盪しながら反応させ、β-アミラーゼ処理によりマルトースあるいはマルトトリオースを遊離させた。反応終了後、100℃、5分の条件で酵素を失活させ、ついで遠心分離(2000 rpm, 10分)し、HPLCにより生成したマルトース及びマルトトリオース量を定量した。
 分析条件は、遠心分離後の上清を脱イオン水で2倍希釈し、その10 mlをTSK-gel G200PW カラム(7.5 mm×600 mm)を用い、脱イオン水にて流速1 ml/min、室温で溶出した。検出には示差屈折計(Waters, 410型)を用いた。分解率は以下の式に従って算出した。

(β-アミラーゼ処理)
分解率(%)=(分解後のマルトース及びグルコースの重量)/全糖量×100

(プルラナーゼ処理)
分解率(%)=(分解後のマルトトリオース及びマルトースの重量)/全糖量×100

 なお、マルトトリオース、マルトース及びグルコースの重量はHPLC分析により求めた。

(2)メチル化分析による平均単位鎖長10)
 五酸化リン存在下にて減圧乾燥した試料約5 mgに、0.5 mlのDMSOを加え50 ℃で溶解させた。微粉末にした水酸化ナトリウム60 mgを加え1時間撹拌した後、室温でヨウ化メチル0.1 mlを加え、室温で1時間、40 ℃で30分、50 ℃で30分及び60 ℃で1時間撹拌し反応させた。反応溶液をクロロホルム抽出し、シリカゲルカラムで精製し、メチル化グリコーゲンを得た。メチル化グリコーゲンを90 %ギ酸を用い100 ℃, 10時間加水分解した後蒸発乾固させ、更に2Mトリフルオロ酢酸で100 ℃, 3時間加水分解させた。反応生成物をアンモニア水により弱アルカリ性にした後、NaBH4で還元し、無水酢酸−ピリジンの条件でアセチル化し、部分メチル化アルジトールアセテートを得た。
 この部分メチル化アルジトールアセテートを、OV-1キャピラリーカラム(0.25mm x 25 mm)を用いたGC-MS(Shimadzu, QP-5000)により分析し、2,3,6-trimethyl体(3-Me), 2,3-dimethyl体(2-Me), 2,3,4,6-tetramethyl体(4-Me)の面積を求め、以下に示した式によって平均単位鎖長を求めた。

平均単位鎖長=(2-Me+3-Me)/4-Me × 100

 また、分岐結合から非還元末端側のグルコース鎖を外部鎖、還元末端側を内部鎖とし、それぞれの鎖長は下式により求められる。

平均外部鎖長=平均単位鎖長×(β-アミラーゼ分解率(%)/100)+ 2

平均内部鎖長=平均単位鎖長−平均外部鎖長−1

(3)イソアミラーゼ処理による鎖長分布
 試料約5 mgを0.1 M酢酸緩衝液(pH 3.5)1 mlに溶解し、イソアミラーゼ(EC 3.2.1.68、Pseudomonas amyloderamosa)25 Uを加え、37 ℃、12時間振盪しながら反応させ、α1→6結合を加水分解した。反応終了後、100 ℃、5分の条件で酵素を失活させた。得られた反応生成物(各種マルトオリゴ糖)を、陰イオン交換カラムCarboPac PA1カラム (4 mm x 250mm)を用いた、高性能イオン交換クロマトグラフィー(DX-300, Dionex社)により分析した。検出器にはパルス電気化学検出器(Pulsed Electrochemical Detector; PED)を用いた。移動層としては、A液として0.15 M水酸化ナトリウム溶液、B液として1 M酢酸ナトリウム含有0.15 M水酸化ナトリウム溶液を調製し、A液とB液の割合を90:10から0:100に変化させる直線的濃度勾配法により溶出させた。

2−8.糖分析

(1)フェノール−硫酸法による全糖量の定量6)
 試料及び5 %フェノール水溶液をそれぞれ0.25 mlずつ試験管に取り撹拌し、その溶液に濃硫酸1.25 mlを室温で加え、再度撹拌し室温で30分間放置し室温まで冷却した後、490 nmでの吸光度を測定した。 

(2)Somogyi-Nelson法による還元末端糖量の定量11)
 試料100 mlに銅試薬100 mlを加え撹拌し、沸騰浴中100 ℃、10分間加熱後急冷した。Nelson試薬100 mlを加え更に2200 mlの水で希釈し、15分間放置後660 nm及び500 nmでの吸光度を測定した。

2−9.生物試験

(1)抗腫瘍活性試験12)
 マウス(BALB/c)腹腔内で培養した腫瘍細胞(Meth-A)を、ハンクス液に懸濁させマウス(BALB/c)腹腔内に1x106個接種した。試料を生理食塩水に溶かした溶液を、腫瘍接種後2日目、4日目、6日目に腹腔内投与した。また、生理食塩水のみを同様に腫瘍移植マウスに投与した群を、コントロールとした。実験マウスは60日間観察し、腫瘍死しないものを治癒マウスとした。

(2)マウス肝化学発癌抑制試験
 雄C3H/Heマウスと雌C57BL/6マウスを、交配させ得られたB6C3F1マウスを用いた。生後15日目のB6C3F1マウスに、発癌剤としてdiethylnitrosamine (DEN)を10 mg/kgの量を腹腔内に1回投与した13)。その1週後より生理食塩水に溶解したSCA25A (200, 400 mg/mouse)を実験終了時まで週1回腹腔内投与し、Fig. 3に示すようなステージで屠殺して、肝前ガンの発生をコントロール群と比較した。

   Fig. 3 Procedure of glycogen treatment during
       chemical hepatocarcinogenesis of B6C3F1 mice.

 摘出した肝の中葉及び左葉の厚さ3 mmのスライスを3日間冷アセトンで固定し、ベンゼン置換後パラフィンに包埋した。6 mmのパラフィン切片をavidin-biotin-peroxidase complex法(ABC法)14)による免疫組織化学試験に用いた。1次抗体として、既報15)のように作成したGST-II抗体を4000倍希釈して使用した。顕微鏡下で50カ所以上の細胞集団をGST-II変異巣として計測した。変異巣の肝に占める面積は、イメージアナライズシステムにより測定した。有意差検定は、Student's t-testによった。