ほたての貝毒1

 ホタテガイの貝毒には麻痺性貝毒と下痢性貝毒があります。

 いずれも有毒プランクトン(渦鞭毛藻など)が産生する毒を、 ホタテガイが摂取し特異的に中腸腺に蓄積されたものです。

 従って、中腸腺を食べない限り人体には全く影響ありません。


麻痺性貝毒

 古くからホタテガイやイガイなどの二枚貝により食中毒が起こっていますが、 このうち中毒症状がフグ毒に似ているものを麻痺性貝毒といいます。

 中毒症状は、食後30分ほどで唇・舌・顔面のしびれを感じ、 やがて首・腕・手足の末端に広がるとともに麻痺に変わります。 さらに運動困難になり、言語障害・頭痛・吐き気・嘔吐が現れ、 最後に呼吸麻痺で死亡します。意識は死の直前まであると言われます。

 死亡は通常12時間以内に起こり、これを超えると比較的順調に回復します。

 厚生省では、昭和56年に食品衛生法により二枚貝に対する麻痺性貝毒の規制値を設けました。 それにより、北海道をはじめ二枚貝の主要生産地では自主的に貝毒の点検を実施し、 規制値以下であることを確認してから出荷する体制が作られています。


下痢性貝毒

 昭和51年に宮城県でムラサキガイによる食中毒が発生しました。その後同様な中毒の発生が相次ぎ患者数は800人にも及びました。

 主な症状は激しい下痢で、嘔吐、吐き気、腹痛がこれに次ぎ、 発熱はほとんどみられません。 ほぼ3日間で回復し、予後は良好で死亡例はありません。

 中毒原因物質は脂溶性であることから初めは脂溶性貝毒と呼んでいましたが、 中毒症状の特徴から現在では下痢性貝毒と呼んでいます。

 毒化が確認されているものには、ホタテガイ、ムラサキガイ、イガイ、 アカザラガイ、アサリ、などがあります。

 厚生省では、昭和56年に食品衛生法により二枚貝に対する下痢性貝毒の規制値を設けました。 それにより、北海道をはじめ二枚貝の主要生産地では自主的に貝毒の点検を実施し、 規制値以下であることを確認してから出荷する体制が作られています。


下痢性貝毒の原因とされる渦鞭毛藻(Dinophysis fortii


参考

ホタテガイ等の貝毒について

昭和五十四年五月十二日 五四水研第五一九号
各都道府県知事宛 水産庁長官通知 より抜粋

1 貝毒の監視について

(1)ホタテガイ等の生産海域において、調査点を定め、ホタテガイ等の貝毒が蓄積するおそれのある期間には、少なくとも週1回、ホタテガイ等の中腸腺に含まれる貝毒の量を検査することにより、ホタテガイ等における貝毒の蓄積に関する監視を行うものとする。

(2)貝毒の検査は、「食品衛生検査指針 理化学編」(一九九一年、厚生省生活衛生局監修、社団法人日本食品衛生協会発行)に定める方法によるものとする。

2 麻痺性貝毒に対する措置について

(1)1の検査の結果、ホタテガイ等の中腸腺に含まれる麻痺性貝毒の量が1g当たり20マウスユニット(1マウスユニットとは、体重20gのマウスを15分間で死に至らしめる毒の量をいう。)を超えた場合には、調査点数の増加、調査間隔の短縮等監視体制の強化を図るとともに、貝毒の量の増加傾向等から必要に応じ(2)の措置を行うよう、関係漁業者に対し注意を喚起するものとする。

(2)ホタテガイ等の中腸腺を含むむき身に含まれる麻痺性貝毒の量が1g当たり4マウスユニットを超えた場合には、当該ホタテガイ等の生産海域におけるホタテガイ等の出荷の自主規制を行うものとする。ただし、麻痺性貝毒は、主として中腸腺に偏在していることが判明しており、ホタテガイの中腸腺を含むむき身でこの数値を超えるものであっても、中腸腺の除去等の適切な処理により、処理後の可食部分でこの数値以下となる場合には、これらの処理のため、ホタテガイを、これを生産した道県内において、道県知事が認定した処理場(以下「認定処理場」という。)に搬送することは差し支えない。

(3)認定処理場を有する加工業者は、中腸腺の除去等の処理を行ったホタテガイを出荷しようとする場合には、当該ホタテガイに含まれる麻痺性貝毒の量を検査するものとし、貝毒の量が1g当たり4マウスユニットを超えた場合には、当該ホタテガイの出荷を行わないものとする。

3 下痢性貝毒に対する措置について

(1)1の検査の結果、ホタテガイ等の中腸腺に含まれる下痢性貝毒の量が、ホタテガイにあっては1g当たり0.5マウスユニット(1マウスユニットとは、体重20gのマウスが24時間で死に至らしめる毒の量をいう。)を超えた場合には、調査点数の増加、調査間隔の短縮等監視体制の強化を図るものとする。なお、この場合、ホタテガイ等の貝毒の量が急速に増加する可能性があるので、併せて(2)の措置に十分留意する必要がある。

(2)ホタテガイ等の中腸腺を含むむき身に含まれる下痢性貝毒の量が1g当たり0.05マウスユニットを超えた場合には、当該ホタテガイ等の生産海域におけるホタテガイ等の出荷の自主規制を行うものとする。ただし、下痢性貝毒は、中腸腺にほぼ偏在していること及び貝柱等の各部位へ移行することはほとんどないことが判明しており、ホタテガイの中腸腺を含むむき身でこの数値を超える場合であっても、中腸腺を除去すれば、中腸腺を除く可食部分ではこの数値以下となると考えられるので、中腸腺を除去するためにホタテガイを、道県知事の承認を得て道県漁業協同組合連合会が指定した処理場(以下「指定処理場」という。)に搬送すること及び中腸腺を適切に除去したホタテガイを出荷することは差し支えない。この場合においても、麻痺性貝毒の場合に準じて、安全性の確保には十分留意するものとする。